『銀色』という作品における夕奈さんに対する自分の解釈をつらつらと書きます。

初めに注意書きを。
作品を買うまでもなくなるような重大なネタバレはしないように書くつもりです(例:犯人はヤス)。しかしネタバレというのは見る人に依存するものです。例えば発売前の公式の作品紹介ページすら遮断して楽しみにしてる人にとっては、雑誌に載ったCGの話をするだけでもネタバレになるわけです。ですから、以降の部分についてネタバレを気にする人はブラウザの戻るをクリックしてくださいませ。(プレイ前にあらすじを知ることがOKかNGかが基準になるような?)

一応、ここを読んでも物語の楽しさが損なわれないような、あるいは別の視点が持てるような書き方を目指すつもりです。

まず一般的なねーちんの扱いはどうなっているのか。
端的に表されているのはインフォレストさんから出版されている『ヤンデレ大全』に収録されているねーちんのページのキャッチコピーだと思われます。

”時代が夕奈ねーちんに追いついた!”

ヤンデレとは今では(一部)浸透している語句だと思いますが、つまりは”愛ゆえに病的な行動を取る”というキャラを指した言葉だと思います。wikipediaによると”School Days”が発売された2005年あたりから出現した言葉、だと。銀色の発売は2002年ですから先取りしすぎたというわけですね。

つまり、ヤンデレの代表に上げられるほど狂気を持ったキャラクターだと受け止められています。
火の無いところに煙は立たぬと言いますが、実際にゲーム内でいい感じに狂気のオーラを纏っておられます。主に主人公・鍋島士朗とヒロインである妹・朝奈さんに向けられた言葉・行動なのですが、どう考えてもプレイヤーへのダイレクトアタックであります。ひぎぃ。

また、当時のねこねこBBSや公式の日記をリアルタイムで見ていたわけではないのですが、過去の四コママンガなどを参考にしてみても(ネタとはいえ)公式側からそういうキャラとして扱われていることが伺えます。

しかし、本当にそんなキャラクターなのでしょうか?
ゲーム開始時において、それまで大衆食堂・佐々井亭を支えていた両親を失ってから七年が経過しています。その間、佐々井亭を切り盛りして存続させていた人物が夕奈さんです。仮に士朗登場前とはいえ病的な行動を取るような、その前兆があるような人が店長という重役をこなせるでしょうか?

”ヤンデレ”という性質が何らかの要因で後天的に獲得されたモノした場合。
では本質はどこにあるのでしょうか。それは物語の冒頭部分に表現されています。銀糸が登場し物語の歯車が回り始める前、それまでの日常を書き表した風景。そこでは忙しくも幸せそうに仕事に励む姉妹の姿が描かれています。

夕奈さんは理不尽さなど微塵もありません。
冷静沈着、品行方正、容姿端麗。ヤンデレ特有の激情や不安定さも無く、穏やかでありながら店長としての厳しさ・責任感があります。彼女目当てで食堂に行く客が居てもなんら不思議ではありません。加えて理想主義ではなく、多少悲観的ながら現実もしっかりと受け止めていることは朝奈さんとの会話からわかります。そこで吐露される不安や悩み。とても人間的です。

これらのことから、彼女はとても実直な人であり、同時に不器用であると思われます。
環境のために甘えを許される年齢のときから現実を知り、店の存続や朝奈さんの教育という責任感から行った努力というのは相当のものだと推測されます。それは頼るべく他人が居ないこと、その方法・選択肢を知らないことも同時に示唆しています。


いわゆる一つの”萌え要素”的なモノは少ないかもしれません。
しかし彼女は十分に魅力的なキャラクターだと思います。

ここまでだけですと「信者の妄想、乙」で終わってしまいます。
では一体何が彼女をヤンデレと呼ばれるまでに変貌させてしまったのでしょうか。

それは物語の要でもある”銀糸”にあると考えています。
何でも願いを叶えると言われている銀糸。それをめぐったお話が『銀色』なわけですが、これはどういったものなのか。願いが叶う原因とか力とか、そういうモノはわかりませんし、問題にすることでは無いと思います。では、銀糸は何に働きかけるのでしょうか。

物質は不変です。
一体何を言い出すのか、と思われるでしょうけれど、目の前のPCがいきなりタイプライターに変わることはありえません。もしそれを銀糸に願ったとしても別の形で叶えられると思います。例えば”ある人がタイプライターを持ってきてPCを持ち去ってしまった”というように。つまり願いが叶うには人が、もっと言えば人の心の動きが介在するのでは無いでしょうか。

人の心は簡単に移ろうモノです。
とても簡単に、とても誘導しやすく。銀糸のルーツが人の”想い”にあったことを考えても、銀糸が主として人間の心を介在・もしくは操作して願いを現実化させるモノという解釈はそれほど外れたモノでは無いと思います。

ここで思いつくのは夕奈さんの心。
真っ直ぐながら不器用というその本質。これは銀糸にとって格好の獲物になってしまうのです。少し力を加えて間違った方向に向けてしまえば、持ち前の実直さからその方向にどんどん進んでいってしまいます。たとえ行き先に泥沼が待っていようとも、すぐに方向転換できるほど器用ではありません。その結果、気が付く頃には膝まで嵌っている……! という状態になってしまうのです。

”銀糸が人の心に作用するモノ”という解釈の根拠になるシーンは銀色3章以外にも見られます。2章の村人の集団心理とか、4章のお医者さんの心理とか。詳しいルーツなんかはゲームをプレイしてみてください。

さて、ここまでつらつらと書いてきました。
その原動力となった想いとは、銀色をプレイした人に対して”恐ろしいキャラ”というだけの印象に終わってほしくないという気持ちと、未プレイの人もしくは銀色発売後からねこねこを知った人に対してねーちんは狂気のネタキャラというだけの扱いになってほしくないという気持ちです。

自分がこの”佐々井亭二号店”というHPを作った動機の二つのうちの一つだったわけですが、6年目にしてようやく専用の記事を書くにいたりました。人気投票というきっかけを起こしてくださったねこねこソフトさんに感謝と同時に、なんという筆不精でしょう。猛省。ちなみにもう一つの動機は補完SSを書く事だったわけですが、こちらはちょっと……。SSのページにて言い訳というか、そんなことを書いておきました。

二次創作ということに関して言えば、今後も厳しいのかなぁ、というのが本音です。
動画投稿サイト全盛となり、お絵かきSNSなど発表の場は以前より豊富ですが、いかんせん完全版ですら6年前(8/31で7年前)の作品ですからね。公式に期待と言ってもソフトハウスさんは新作に力を入れたいでしょうし、あまり我が侭を言うわけにはいきません。自分は下手なりに続けていくつもりですけどね。好きなモノを好きなように創る。それこそが二次創作。


さて、人気投票。
ねこねこソフトさんとしても再動ということで、新規ユーザーさんも増えてくることでしょう。そんな時、夕奈ねーちんがみなさまに温かく迎えられることほど嬉しいことはありません。ここを読んで興味を持っていただけた方は、是非ねこねこソフトさんから再販されてる『銀色』をプレイしてみてください。新作の『そらいろ』のような学園モノとは対極の、あまり明るい話ではありません。夕奈ねーちんにとっても悲しいお話です。ですが、人間の心の機微を描き出した名作だと思います。

ねーちん
”夕菜”じゃなくて”夕奈”なんだからねっ!
勘違いしないでよねっ!!



自分もねーちんを嫌ってるわけじゃないのです。
こういう暴走モードも含めて好きです。ねーちんの罵詈雑言が好きなんだ、もっと罵って! という価値観もありといえばありだと思います。自分はどっちかというと、上述のような穏やかな夕奈さんの方が好きなだけで。

ねーちんと言えばGUSARI☆ですね。
包丁で、こう、GUSARI☆ と。ねこキャラで言うと朱のニムラムさんと包丁で渡り合う、壮絶なバトルマンガとかありなんじゃなかろーか、とか思ったり。スカーレットで、包丁の投擲をしてくる諜報員とか……妄想の翼はどこまでも広がりますぜ。

てなわけで、夕奈ねーちんが良いキャラだなぁ、と思ったら、是非投票をポチッとお願いしますです(ぺこり